両側精管切断術(パイプカット)

パイプカットとは(精管切除術)

パイプカット(英:Vasectomy)とは、男性の精管(せいかん)と呼ばれる、精巣で作られた精子を射精液へと運ぶ管を切断・遮断する手術です。これにより、射精液の中に精子が含まれなくなり、受精が起こらなくなります。

射精液の大部分(約95%以上)は前立腺や精嚢腺からの分泌液で構成されており、精子は全体の数%以下です。そのため、手術後も射精の量・感覚・快感はほとんど変わりません。また、ホルモンの分泌や男性ホルモン(テストステロン)の働きも一切影響を受けないため、性欲・勃起力・二次性徴に変化はありません。

世界的には50年以上前から行われている歴史のある手術であり、**避妊効果はほぼ100%(再疎通率0.1%未満)**と非常に高く、女性の避妊手術(卵管結紮術)と比較しても、身体的負担が少なく安全性が高いとされています(AUA Guideline 2012、日本泌尿器科学会『泌尿器科診療指針2024』)。

また、近年では「パートナーの健康を守るための選択肢」として、妊娠を望まないご夫婦・カップルの間で選ばれるケースも増えています。女性の避妊手術と比べて日帰り・局所麻酔で行えること、回復が早いこと、費用が抑えられることも大きなメリットです。

ただし、一度手術を行うと自然に元に戻ることはなく、将来的に子どもを希望する可能性がある場合は慎重な検討が必要です。精管再吻合術(再開通手術)は可能ですが、成功率は約60〜80%にとどまります。

ここがポイント

  • 精管を遮断し、精子を射精液に含まれなくする「男性側の避妊手術」
  • 性欲・射精・ホルモン機能は変わらない
  • 避妊効果はほぼ100%、女性の避妊手術より負担が少ない
  • 局所麻酔・日帰りで可能(手術時間約15〜30分)
  • 将来の妊娠希望がある場合は慎重な判断が必要

法的・倫理的事項

日本では、母体保護法第14条により、精管切除術は「本人の希望と配偶者の同意」の両方が必要です(未婚者や同意が得られない場合は原則実施不可)。

  • 配偶者の同意書(署名・捺印必須)
  • 本人の署名入り同意書

手術の流れ

当院では泌尿器科専門医が局所麻酔下・日帰り手術として実施します。手術時間は約15〜30分です。

  1. 手術前診察・カウンセリング(本人および配偶者)
  2. 配偶者同意書の提出(母体保護法第14条)
  3. 局所麻酔下で精管を皮膚切開または穿刺により露出
  4. 精管を切断し、両端を結紮または焼灼して遮断
  5. 創部を閉鎖(通常は吸収糸で縫合)し終了

手術後も約3か月間(20回程度の射精)までは精管内に精子が残存するため、術後3か月での精液検査で無精子を確認するまでは避妊が必要です。

合併症

術後の軽度な疼痛・腫脹約5〜10%数日〜1週間で自然軽快
血腫・皮下出血約1〜2%冷却・安静、まれに再開創
創部感染約1%未満抗菌薬投与で改善
慢性陰嚢痛約1〜2%多くは保存的治療で軽快
精管再開通・再疎通による再妊娠約0.1%以下再手術が必要な場合あり

パイプカットは基本的に永久避妊法ですが、どのような避妊法でも100%確実なものはありません。術後の精液検査で精子が認められなくなったとしても2,000組に1例の割合で自然妊娠する場合があると報告されています。
(参考:日本泌尿器科学会 編『泌尿器科診療指針2024』、AUA Vasectomy Guideline 2012)

出典・参考文献

  • 日本泌尿器科学会 編『泌尿器科診療指針2024』
  • American Urological Association. Vasectomy: AUA Guideline, 2012.
  • 日本産婦人科学会『母体保護法の解説』2022年版

費用

  • 手術代150,000円(術後の精液検査込み)
  • 静脈麻酔を追加で希望される場合、別途50,000円